みにくいスーツの子～ドキュメンタリー Date : 2009/03/14 (Sat) TB : CM : 4 Category : 日記

西暦2009年、ある片田舎に「へる」という大学生がいました。
へるは村でも評判の色黒で、髪の毛の量がとても多くもっさりしている
それはそれは要領の悪い大学生でした。

そんなへるも就職活動を始めます。
「明日は面接だわ。ちゃんと準備しないと！」
へるは「マイナビ」を使って地図を用意し早く寝ました。

次の日へるは面接をうけに、あるビルへと向かいました。
「大きな道路の向こうに橋があって…この近くね。 ここなら私もよく知っている所だわ。」
地図に印された場所に着きました。
時間もちょっと余裕があるくらいでバッチリです。

しかし どこを探してもビルが見当たりません。
「おかしいなぁ…地図では確かにここなのに！！」
刻々と時間は迫ります。 へるはだんだんと焦ってきました。
人に聞いたり少し遠くまで行ってみたり、必死になって探しました。
なのにどうして、ビルはちっとも見当たりません。
いよいよ時間は迫ってきて、へるはその会社に電話をかけました。
ですが電話はつながりません。 何度も、何度も電話をかけましたが駄目でした。

ついに面接の時間になってしまいました。
へるは降りしきる雨のなか、呆然と立ち尽くし
寒さか己の情けなさか、震えが止まりませんでした。

意気揚々と家を出たあの頃よりも、
雨は強くなり冷え込みも強くなりました。 まるで今の心の中を表すようです。

「なんで私はいつもこうなの。いつだってそう。
初めての筆記試験は履歴書と消しゴムを忘れたわ。
次の筆記は成績証明書を忘れたわね。
めちゃくちゃな履歴書を送って書類で落とされたりもしたわ。

面接では歩くたびポケットの中の鈴が鳴っていたし
この間だって財布を忘れたし、
財布に気をつけたら今度は大遅刻しそうになって
タクシーを使ったから片道400円が4000円になったわ。」

一気に考え終えたへるはからっぽでした。
考えると悲しいことしか出てこないので考えることをやめました。
そのまま午後の筆記の会場に向けて歩き始めました。

お昼。筆記の会場につき、へるは気持ちを切り替えます。
思い出したようにお詫びの電話を入れました。
「大変情けない話ではありますが
見当違いな所を歩き回っていたようで、間に合わなくて…」

するとなんと 「あぁ～！今からいらっしゃいます？」と！！！
なんということでしょう。
まさか道に迷っていただけの馬鹿な大学生にこんな優しいお言葉を！

…しかしもう筆記は始まってしまうのです。
泣く泣く「申し訳ありません…予定が入っているので…」と。
すると「そうですか…頑張って下さいね！」とのお言葉が。

へるは落ち込みました。久しぶりにどん底まで沈みました。
なんてことなんだろう、まさか優しい言葉をもらえるなんて。
こんなことなら「お前みたいな人間元々縁がないんだよバーカ！」
とでも言われたほうがマシだ、そう感じたのです。

そのまま筆記をうけに行きました。
そんな気持ちで書いた作文は、時間が足りず
「内だけでなく外でも名　　　　　　　　　　」 という
ダイイングメッセージを思わせる奇抜な文章の締め括り方になりました。

帰り道、外は大雨になっています。
へるの心も大雨でした。
そんな時に車が水溜りの上を通り、
泥水がかかるという ベタな展開までがへるを襲いました。

そして背中に火をつけられて
砂の船に乗らされ沈み
その砂をつかんで枯れ木にまくと 特に何も起こらず
殿様にかかり 打ち首になる直前に
煙がもくもくと出ておばあさんになってしまいました。
めでたくなし、めでたくなし。


そんなへるに同じ会社を受けた友達から一本の電話が。
「今日の面接行った～？あれ家出る直前にさぁ～
『地図を間違えました、すみません』って電話かかってきたね。
かかってきた？お昼にかかってきたんだけど。」

次から地図はgoogleで調べようと誓ったへるでした。
ちょっとだけ、めでたし。